異職種から入った農業の世界。人とのつながりと学びを糧に、受け継いだバトンを次世代へ
目次
—現在、ご主人と共に、落花生やネギ、お米などを栽培する農場を経営されています。以前はどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
迷いを救った父の一言
学校卒業後は、まわりと同じように事務職を選び、東京・丸の内の企業で財務管理や経理業務に携わっていました。ひたすら数字と向き合う地味な仕事でしたが、やり遂げたときには大きな達成感があり、やりがいを持って取り組んでいました。
しかし、当時の女性社員といえば、朝早く出社してお茶の準備をするところから始まり、担当業務の合間に雑用や来客対応もこなすといった時代。朝7時半に出社して終電まで働き詰めの日々が続き、ついには体調を崩してしまったんです。
当時は終身雇用が当たり前で、転職のハードルも今よりずっと高い時代です。「もう少し我慢したら?」「丸の内の会社勤めを捨てるのはもったいない」と周囲に言われ、自分でも不甲斐なさに落ち込んでいました。
そんなとき、父がこう声をかけてくれたんです。「初めての仕事だから、合わないことだってあるよ。(視点を変えて)好きなメイクの学校にでも行ってみたら?」と。
その言葉を聞いて、肩から力がふっと抜けました。「そうか。好きなことを仕事にしてもいいんだ」と、自分の人生を新しい視点で見つめ直せるようになったのです。
—そこから、接客の方向へシフトチェンジされたのですね
仕事の原点となったテーマパークでのアルバイト
父はメイクの学校を勧めてくれましたが、私は「ずっとやってみたかったことにチャレンジしよう」と決め、憧れだったテーマパークのアルバイトに飛び込みました。実は、実家がお蕎麦屋さんで、子どもの頃からお店を手伝いながら多くのお客様と接してきた経験があるため、人と関わる仕事や接客は好きだったんです。
アルバイトとはいえ研修は本格的で、接客ノウハウはもちろん、企業理念やテーマパークの世界観、キャストとしての心構えまでしっかりと学びました。お客様の楽しそうな笑顔に触れる日々はとても幸せで、「私は人と接する仕事が好きなんだ」と実感できた5年間でした。
その後、自分の力を試したくてリゾート地でのガイド業などにも挑戦しましたが、どんな現場でも活きる“おもてなしの土台”のようなものは、間違いなくこのテーマパークでの経験で培われたと感じています。ここで学んだ「お客様に喜んでもらうこと」を大切にする姿勢は、現在の農業の現場でも私の大きな原点になっています。

—その後、ご結婚を機に千葉県へ移住されますが、最初は農業をする予定ではなかったそうですね
「孤独じゃない」がモチベーションに
それまで農業とはまったく縁のない世界で生きてきたので、結婚当初は「手伝わなくていいよ」と言われていました。夫も会社勤めでしたので、私は義理の両親の作業を時々手伝う程度で、子育ての傍らファストフード店でパートをする暮らしを送っていました。
ところが、娘が小学4年生になった頃、夫が「実家の農業を継ぐ」と言い出したのです。私も「手伝わないわけにはいかないな」と、心の中では“しぶしぶ”と農業の道へ入ることにしました。なぜなら、それまでの私の農業に対するイメージは、「黙々と作業する孤独な仕事」というもの。あまりにも、私の適性とかけ離れていると感じていたのです。
このとき、ご近所でお世話になっていた農家のお母さんが「農業をやるならここに入りなさい」と、地元の女性農業グループを紹介してくれました。そこで、情報交換をし合い、助け合い、知恵を出し合う女性コミュニティの存在に出会ったことで、農業のイメージがガラリと変わりました。また、明るく賑やかな雰囲気に「孤独じゃない」と、救われもしました。あのとき手を差し伸べてくださった先輩農家の方には、今でも心から感謝しています。

—地域の女性グループの活動に加えて、全国規模のコミュニティでも活動していらっしゃいますね
さらに視野が広がった「農業女子」の活動
現在は地元のグループだけでなく、農林水産省が推進する全国の女性農業者のネットワーク「農業女子プロジェクト」に登録しています。ここでは企業とのコラボレーションや、女性のための農業機械講習、全国規模のイベント企画など、スケールの大きな発想に触れ、学びを深めることができました。また、全国で活躍する女性農業者との交流に大きな刺激を受けています。
企業とのやり取りが増えたことで、パソコン操作や事務作業も学び直しました。また、農家は「生産者」であると同時に「事業者」でもあります。経営や会計の知識については、若手時代に丸の内で培った財務・経理のスキルが、ここへきて大きく役立っていることを感じています。
学びを深め、視野が広がることで、マーケットや流通の仕組みにも意識が向くようになりました。一線のスペシャリストたちの話を身近に聴ける環境は、私自身の身を引き締める素晴らしい刺激になっています。
—お仕事のやりがいと、これからの展望についてお聞かせください
学びを糧に、受け継いだバトンを次世代へ
毎年出店するマルシェで、お客様から「今年も待っていたよ!」と声をかけていただく瞬間は、何よりの生きがいです。
一方で、私にとって農業は、暮らしを立てるための手段であるという感覚も持っています。もともと好きで始めたわけではないからこそ、どこか程よい距離感で客観的に仕事を見つめている部分があるかもしれません。
正直に言えば、収穫後の片付けや草刈りは今でも嫌いですし、暑いのも寒いのも、日焼けするのもイヤ(笑)。
でも、作物を収穫する喜びや、農業を通じてできた仲間、スペシャリストたちとの出会いなど、代えがたい魅力がたくさんあります。
「好き」と「嫌い」が混在しているこの感覚もまた、仕事の面白さかもしれませんね。
最近、娘が独り立ちしたので、これからは自分自身の成長のために時間を使いたいと考えています。今年は、農林水産省の就農環境改善事業の一環である「女性農業者のための事業推進力&チームマネジメント力アップ研修」へ申し込み、次のステップへ進むための準備を始めました。
こうして学び直す背景には、日本の農業に対する危機感があります。今、夏の猛暑などの気候変動や後継者不足など、農業の未来には多くの課題があります。就農希望者とお話しする際、「スローライフに憧れて」という声を聞くことも多く、関心を持ってもらえる嬉しさの一方で、決してスローではない現実を知る身としては心配になることもあるのです。
せっかくの夢が挫折に終わらないよう、農業のやりがいだけでなく、リアルな現実や課題もしっかり伝えて、一緒に良き取り組み方や解決策を考えたい。かつて先輩方が私を導いてくださったように、今度は私が学びを地域に還元しながら、新しい世代へとバトンを繋ぐ役割を果たしていきたいと思っています。

マイフィロソフィ
『やらない後悔より、やった後悔を選ぶ』
1日のスケジュール
04:00
起床
犬の散歩
コーヒータイム
洗濯の合間にメールチェックや事務処理
06:30
ハウスで収穫作業
08:30
直売所に配達
09:30
出荷の準備後、市場へ出荷
13:00
休憩・昼食
14:30
草取りなどの軽作業
16:30
仕事終了
17:30
夕食の支度・夕食
19:00
リラックスタイム
動画鑑賞、入浴など
22:00
就寝
季節によって仕事内容は違ってきますが、夏の時期はだいたいこのようなスケジュールです。9月には落花生の収穫を迎えます。




































































































