家族の転機をきっかけに、憧れの「農ある風景」へ
目次
—東京から千葉県いすみ市に家族で移住されたそうですが、その経緯を教えてください
家族の環境を整え、新しい一歩を
以前は、東京で保育園の園庭など屋外の環境設計を行うランドスケープ専門の設計事務所を営んでいました。もともと大学時代に建築学を修める中で、自然と人の関係性を設計するランドスケープデザインに興味を持ち、将来はその分野の仕事をしたいという希望があったんです。最初は設計事務所で経験を積み、2010年に独立。そこから、園庭等の環境設計を専門に行う事務所をスタートさせました。同じく自身の建築事務所を営む夫と、チームで仕事をすることもありました。
設計の仕事は、一つのプロジェクトが完成したら基本的にはそこでさようならで、その後、次の現場を手がける。その繰り返しです。そんな中、いずれは自分自身のプロジェクトを立ち上げ、一つの土地と長く、そして深く関わっていきたいという想いが少しずつ募るようになっていきました。里山の恵みを感じられる「農ある風景」の中で暮らし、その土地に根ざした活動や設計に携わりたいと考え、仕事で関わる場所に足を運びながらリサーチを続けていました。
転機が訪れたのは、コロナ禍です。二人の子どもたちが相次いで不登校になったのです。それまでは、学区の関係から引越しに慎重になっていましたが、学校に行かないとなれば、学区にこだわる必要もなくなります。「今が移住するタイミングかもしれない」と、前向きに捉えることができました。家族の環境を変え、新しい一歩を踏み出そうと、長年思い描いていた地方への移住を決意しました。

—移住後、未経験の分野である「酪農」という新しい仕事にチャレンジされたそうですね。いすみ市を移住先に選んだきっかけについても教えてください。
新天地でまさかの牛飼いライフ
移住先をいすみ市に決めたのは、すてきな移住者向けの住宅との出会いがあったこと、そして東京からの距離が近かったことです。「もし上手くいかなかったら、その時は東京に帰ってくればいい」と思えたことで、心理的なハードルがぐっと下がりました。
実際に住んでみると、私たちのような移住者が多いこともあり、とても居心地の良い場所でした。
実は、移住の少し前から夫が酪農に興味を持ち、移住してすぐに地元の牧場で研修を始めたんです。そこで譲り受けた1頭のジャージー牛を飼うことから、私たちの新しいチャレンジがスタートしました。その後、いすみ市内で放牧に適した4.5ヘクタールの広大な土地を見つけることができ、現在は5頭のジャージー牛を放牧しています。
昨年からは、搾りたての牛乳を使ったフローズンヨーグルトの製造を始め、近隣の店舗に卸すという〝6次産業化〟にも挑戦しています。私自身、「農ある風景をいつか設計したい」と望んではいましたが、まさか自分が牛を飼い、加工品を作る生活を送るなんて、東京にいた頃は想像もしていませんでした。

—移住したことで、暮らしや仕事に関する考え方にどのような変化がありましたか?
新しいつながりで視野が広がり…
最初は、知り合いが誰もいない状態からのスタートでしたが、地域の方々や移住の先輩方とつながる中で、いすみ市周辺にはこだわりの農産物や美味しいものを作る人たちがたくさんいることを知りました。高級スーパーを回って探しても見つけられなかったような、素晴らしいクオリティの国産のチーズを、ここではごく普通に作っている人がいる。そんな感動の連続でした。
地域の食の豊かさ、作り手の熱意に触れるうちに、「この地域の美味しいものをもっと多くの人に知ってほしい」という想いが自然と湧いてきました。そこで、これまでの人生で一度も経験がなかった「マルシェ(市場)」を、自分たちで企画して開くようになったんです。
新しい環境に飛び込んだことで、多様な人たちとのつながりが生まれ、自分の視野が大きく広がりました。そして、そのつながりがまた、新しいチャレンジを生み出す原動力にもなっています。

—これから先、この場所で叶えたい夢や目標はありますか?
地域に根ざす事業を目指して
私たちは全くの異業種から酪農や食品加工の世界に飛び込んだため、進む過程で次々とわからないことや、迷うことが出てきます。しかしその都度、地域の先輩方に相談すると、いつも温かく的確なアドバイスをくださいます。まわりの方々の支えがあるからこそ、私たちはこうして新しい挑戦を続けられています。
まだまだチャレンジの真っ只中ではありますが、この事業をしっかりと継続させていき、将来的には、地域に貢献できる〝良い中小企業〟へと育てていきたい、というのが今の目標です。
もちろん、仕事を進める過程では、実際大変なこともたくさんあります。そんな中でも、私はあえて「楽しく仕事をすること」を大切にしています。そして、まずは自分たちがワクワクしながら明るく働く過程を見てほしい。「楽しいところに人は集まる」という言葉を信じて、そのエネルギーを周囲や地域へと循環させていきたいですね。これからも、いすみ市の豊かな自然とともに、一歩ずつ歩みを進めていきたいです。
—最後に、何か新しいことにチャレンジしたい、一歩を踏み出したいと考えている方へメッセージをお願いします
今のスキルが、次のステージの「宝物」になる
移住して新しい挑戦を始めてから、本当に多くの方に応援していただく機会が増えました。地元の先輩方はもちろん、仕事関係の方、そして東京時代のママ友たちがエールを送ってくれることは、日々の大きな心の支えになっています。
そしてもう一つ、挑戦の中で気づいたうれしい発見があります。それは、「これまで仕事として当たり前にやってきたスキルが、異業種でも驚くほど役に立つ」ということです。私の場合、マルシェを立ち上げる際に、仲間に声をかけて企画をまとめたり、イメージを絵に描いてプレゼンしたりといった、前職の設計事務所での経験がそのまま活かされました。
まわりの移住仲間を見渡しても、皆さんそれぞれ新しいビジネスの中で、過去の経験や得意分野を活かしながらチャレンジされています。日々仕事をしていると、今持っているスキルが当たり前すぎて自分でその価値に気づけないことがあるかもしれません。でも、誰もが必ず自分だけの「宝物」を持っています。新しい環境を恐れず、自分の可能性を信じて、ぜひ一歩を踏み出してみてください。

マイフィロソフィ
『人生楽ありゃ、苦もあるさ』
(ドラマ『水戸黄門』のテーマソングより)
1日のスケジュール
05:30
起床
朝食準備、お弁当作り
08:30
メールチェックなどPC作業
09:30
乳製品作りの作業開始
牛乳の殺菌作業など
12:30
昼食
13:00
乳製品作りの作業再開
ヨーグルト製造など
19:30
夕食準備
家族で夕食
入浴
PC作業など
24:00
就寝
私も夫も、設計の仕事をそのまま続けながらのパラレルワークなので、スケジュールは日によって違います。牛のお世話は夫が、美味しい物作りは主に私が担当しています。


























































































