棚田のお米でおいしいアイスを!〝ワクワク〟でつながる全国の棚田

目次
—葉山へ移住を決めたきっかけ、そして、棚田との出会いは?
美しい風景に惹かれ〝葉山棚田耕作隊〟に参加
以前は東京に住んでいたのですが、ミュージシャンとして活動していた夫が体調不良に悩んでいた頃、葉山で海越しに見える富士山を見て感動し、ここに移住することを決めました。実家が横浜なので葉山にはよく遊びに来ていたし、私は料理と食べることが大好きなので、食べ物がおいしいところなら大歓迎という気持ちで。3人の子どもを連れての引っ越しも、まったく苦ではありませんでした。
ある日、山の方にお蕎麦を食べに行ったとき、近くに棚田があるのを見つけて、「きれいだな」と思ったんです。子どもの頃から何度も遊びに来ていたのに、葉山に棚田があることをその時初めて知りました。
その後、偶然にも幼稚園のパパ友に、「棚田の耕作をやってみない?」と声をかけていただいて。美しい棚田の風景に惹かれていたこともあり、夫と一緒に〝葉山棚田耕作隊〟に参加し、まったくの未経験から稲作を始めました。


—なぜ、棚田のお米でアイスクリームを?
参加して知った棚田が抱える課題
耕作をお手伝いするうちに、棚田がいくつかの課題を抱えていることを知りました。地形の特性から、大型の機械を入れて効率よく作業することができないので、棚田での耕作は平地に比べて〝人手は2倍、収穫量は半分〟と言われています。そのため、人手不足や後継者不足で、代々続いた棚田を手放す方も多いんです。収穫量が少ないので、通常の流通に乗せるのが難しいという問題もあります。
棚田からワクワクすることはできないだろうか?
考えをめぐらせた中で、「お米を使ったアイス」にたどり着きました。
アイスだったら、大人から子どもまでみんな大好きだし、多くの方に楽しんで食べていただける。棚田のお米を知っていただくチャンスが広がると思ったんです。試しに作ってみたら、これがおいしくて! これはいけると思いました。
取り組みを長く続けるには、神妙な顔で「大変なんです」と訴えるよりも、ワクワクすること、楽しいことを提供する方が断然いいというのが私たちの考えです。さらにアイスの試作を重ね、〝棚田から笑顔を〟をコンセプトに、2018年4月、『葉山アイス』の販売をスタートしました。
—アイスの販売と棚田の保全活動が繋がる仕組みは?
売上の一部が棚田の保全活動に
アイスを買ってもらうと、1個につき10円が棚田に還元される仕組みになっています。その後、共感してくださった日本各地の棚田にもアイスの活動が広がり、今では全国10地域の棚田と連携し『棚田アイス』を展開しています。いずれ、この活動を同じ棚田文化を持つアジア圏、さらに世界にも広げたいという思いがあります。
また、最近では、愛知県三河市のみりんメーカーとコラボし、みりんを使ったアイスも発売しました。お米つながりで、各地のメーカーさんとコラボする活動も続けていきたいですね。

—3人のお子さんを育てながらのお仕事。両立のための工夫は?
〝お互いさま〟という環境があるからこそ
葉山の町というと、御用邸があり、海があり、風光明媚なリゾートのイメージがありますが、実は昔ながらのお付き合いができる素朴な面もあって、まるで昭和時代のような子育てをしてきました。
今年から、アイスづくりの拠点を長野の工場に移し、私自身は以前より時間に余裕ができたのですが、それまでは自分でアイスを作っていたので、忙しくてキリキリ舞いでした。今になって、「子どもたち、どうしてたっけ?」と思うくらい(笑)。忙しすぎて記憶がない!と、後からびっくりです。
「今日お迎えに行けないから、ちょっとうちの子預かって」と、ママ友に助けてもらったり、逆に私が預かったり。〝お互いさま〟と、助け合って子育てができる環境があるからこそできたことかもしれません。近所の子どもたちがわちゃわちゃと集まって育つ環境は、兄弟がたくさんいるようなもので、子どもたちにとってもいいことだったと思います。
—活動するなかで、「よかった!」と思うことは?
夫婦で一緒に活動できること
何より、体調を崩して大好きな音楽の仕事を休まざるをえなかった夫が、土に触れて生き生きする姿を見るのはうれしいし、夫婦で一緒に仕事ができることに幸せを感じます。
また、地元・鎌倉の小学校の給食にアイスが採用されたり、全国の小学校の教科書に棚田の活動が載ることになったり。たくさんの子どもたちに知ってもらえることもうれしいですね。
最近では、地元の小学校で講師としてお話しする機会もいただくのですが、子どもたちとの交流は楽しく、とてもやりがいを感じます。「棚田の保全活動をしている人」と言うと子どもたちが真面目な顔になってしまうので、「アイスを作ってる人」として行くんです。ディスカッションで、次々と楽しいアイデアを話してくれる姿を見ると、この活動をしていてよかったと思います。これからも、ワクワクする気持ちを共有しながら、活動を広げていきたいと思っています。

マイフィロソフィ
・できない理由を並べるのではなく、できる方法を探そう。
1日のスケジュール
05:00
起床
近所にできたジムで運動して気分転換
07:00
子どもたちが起床
朝食
家事
12:00
昼食
店舗へアイスの配送
食事の仕込みなど
17:00
間借り店舗でスナックをオープン
21:00
スナック終了
23:00
就寝
アイス作りの拠点を移して時間に余裕ができたため、半ば趣味で週に2日ほどスナックを始めました。好きな料理をふるまう場として、また、近所の方とのコミュニケーションの場として楽しんでいます。