結婚をきっかけに 南房総の農家の一員に

目次
—現在、ご家族で農業と農家レストランを営まれています。もともと農業のご経験は?
結婚をきっかけに農業の道へ
私自身農学部を卒業し、その後、農産物を扱う会社に勤務した経験があるのですが、実際に養鶏や野菜作りに携わったのは結婚してここへ来てからなんです。
もともと、動物や植物が好きで、高校は畜産や園芸が学べる学校に進学し、それから農業大学へと進みました。そうした中でも、まさか自分が将来農家に嫁ぐとは少しも思っていませんでした。大学時代からお付き合いしていた夫が、たまたま農家の15代目だったという感じです。農業や養鶏、レストランの仕事については、結婚後に家族に教わりながら学んできました。
私たちが住む南房総市の旧三芳村は、早くから有機農業に取り組んできた地域なんです。近隣の方々も農業のあり方や自然環境について造詣が深く、話をする中でさまざまなことを教えてもらっています。
—レストランでは自家栽培のお米や卵を使ったお料理を提供されているそうです
田舎暮らしの魅力を多くの人に
うちで採れた卵やお米、野菜を使ったお料理をお出ししています。食事を提供する母家は約300年前の江戸時代に建てられたもので、表には茅葺き屋根の大きな長屋門があります。のどかな田園風景の中で、鳥のさえずりや鶏の鳴き声を聞きながら、日常と違った雰囲気の中でゆったりとお食事できるのが特徴です。
お米も昔ながらのかまどで炊いているんですよ。燃料は竹林から切り出した竹で、廃材となるものを有効に使っています。手間と時間はかかりますが、やってみるとなかなか楽しい作業です。
夫のおばあさんの時代にはかまどから電気炊飯器に変わっていたそうですが、義母がかまどでご飯を炊きたいと新しく設置したそうです。義母は、昔ながらの道具を大切に使ったり、自然と共生する暮らしを大切にする人で、ここでレストランの営業を始めたのも義母なんです。趣ある古民家や大切に使ってきた昔の道具を含め、田舎暮らしの魅力をたくさんの人に知っていただきたいという思いがあります。

—今、2歳の男の子のママでもあります。お子さんが産まれて時間の使い方は変わりましたか?
保育園に送ってから仕事開始
子どもが生まれる前は、時間に制限がなかったので、朝早くから暗くなるまで好きなだけ作業をしていましたが、今は朝8時に保育園へ送り、その後9時ごろから仕事に取りかかるという流れです。会社勤めのお母さんと変わらない生活ですね。夕方にお迎えに行くまでの間、卵の出荷作業やレストランの仕事、野菜の管理や事務作業をしています。
子どもは今2歳になりますが、家のまわりを走りまわったり、竹の端材で何か作ったりして遊んでいます。お腹が減ったら、みかんの木から直接みかんを採って食べたり(笑)。里山暮らしならではの遊び方ですよね。
仕事と子育てで忙しく過ごしていますが、会社勤めをしていた頃に比べて、〝疲れる〟感覚が変わったなと思います。生き物や自然相手の作業なので、肉体的な疲労はもちろんありますが、精神的な疲労はほとんど感じず時間が経つのがあっという間で、伸び伸びと仕事ができています。
—農家の仕事を始めてからご自身に変化は?
私たちも自然の循環の中にある
大きく変化したという意識はありませんが、夫やまわりの方々の話を聞く中で、農業のあり方や自然環境について考えることが多くなりました。
自然の中での暮らしは、木々や草花、山や土と直接関わる暮らしです。今まで考えたこともなかった山の手入れや〝土中環境〟についても考えるようになりました。
これまでは、木が生えていたら「手入れが面倒だから切っちゃえ」と思っていましたが、木が根を張ることで地盤が固まり土砂崩れを防いでくれる面もあるのだと知りました。雑草もすべて刈り取ればいいというわけではなく、土中のバランスを保つのに役立つ雑草もあったりと、それぞれがそこにある意味がちゃんとあるんですよね。
畑で採れた野菜のくずが鶏たちのエサになり、鶏たちが出すふんが野菜の肥料になり、私たちはその野菜や卵を食べています。畑をやりながら鶏も飼うという意味がそこにあります。こうやって自然は循環して、私自身もその循環の中にあるのだと実感するようになりました。

—今後取り組みたいことはありますか?
都市と里山の橋渡し役に
今はまだ夫婦で思い描いているだけですが、山を散策できる散歩道を作ったり、長屋門の二階に昔の道具を展示して見てもらったりと、自然と食が楽しめる里山のテーマパークみたいな場所になれば楽しいなと思っています。
最近、サステナブルな暮らしのあり方が話題になりますが、実はずっと昔から一つの答えがここにあって、それはなかなか素敵なことだよと、たくさんの方に知ってほしいですね。
そうは言いながら、実は便利な都市生活に抵抗があるわけではなく、ネットショッピングも大好きです(笑)。有機農業というと、意識が高い人たちのものというイメージがあるかもしれませんが、私も夫も、健康のために有機野菜を育てているというよりは、持続的に農業を続けるための策として有機農業を行っているだけなんです。
特に難しいことを考えなくても「お野菜って美味しいね。昔の暮らしってよくできてるね」と、気づいていただけたらうれしいです。
都市生活の感覚も田舎暮らしの魅力も、両方よく知っている私たちだからこそ、都会と里山との橋渡し役ができたらいいなと思っています。

マイフィロソフィ
・とりあえずやってみる
1日のスケジュール
06:30
起床
朝食、家事
08:00
子どもを保育園へ
09:00
仕事開始
集卵/卵の仕分け
12:30
昼食
13:30
午後の業務開始
出荷作業/野菜管理/事務作業など
18:00
保育園へお迎え
18:30
夕飯
22:30
就寝
現在は子育てがあり妊娠中でもあるので、レストランの仕事は義母が担当してくれていますが、お客さんが多い日や義母がお休みの日はレストランにも入ります。時間があるときは、趣味のお菓子作りを楽しむことも。