会社員時代に学びを深め、心に抱いていた暮らしを実現

目次
—東京から富山に移住して約9年になるそうです。現在のお仕事について教えてください
農業+キャリアを活かした仕事のパラレルワークで
現在、富山県氷見市に住んでおり、いくつかの仕事を並行して行っています。
一つは、自身で立ち上げた事業で、地元の食材や伝統的な発酵調味料、四季を尊重した料理教室。リモートワークで東京の会社から請け負っているウェブマガジンの編集サポートや社会事業コーディネート。そして、自然栽培、循環型オーガニック栽培の農園「天然ファーム 藝術農民」を夫と共に運営しています。
夫は2022年に新規就農し、農薬や化学肥料を使わない農法でお米や野菜を作っています。自然と人間が共存する〝農〟のあるライフスタイルを送りたいと東京から移住しましたが、夫が本当に農業を生業にするとは、移住当初は予想していませんでした(笑)。

—田舎暮らしに興味を持ったのはいつ頃ですか?
大学時代に〝地方の価値〟に着目
私自身はもともと富山県の出身で、高校卒業後に京都の大学へ進学しました。大学では社会学を専攻し、そこで外からの視点で、自身が生まれ育った富山の豊かな文化やライフスタイルの価値に改めて気づいたんです。とりわけ〝農〟を通じて得る自然との会話や身体性、〝食〟を大切にする意識が現代の暮らしに不足しており、これからの時代、そこに意識を向けることが必要になるだろうと考えました。
そのため、ゆくゆくは自然と共生する暮らしがしたいという思いもありましたが、編集者という仕事に惹かれ、新卒では東京の出版社に入社。地方の価値を見直し、自然や文化を守ることに貢献したいと考え、旅行ガイドブックの製作に携わりました。
その後、PR会社を経て、社団法人で社会事業コーディネーターとして社会や地域の課題に取り組む仕事をしてきました。
東京での生活は多忙を極めた時期もありましたが、自然と共にある暮らしへの思いはずっと抱いており、休日に自然農法や草木染め、野草料理などを体験しに行ったり、同じく地方の文化や自然と共生する知恵、サステナブルな価値観などに興味のある仲間と交流したり、自分でもそういったイベントを企画したりなどしていました。
東京にいた時の週末や平日の仕事のあとは、同じ志を持つ仲間と出会うことを重視していた日々だったと思います。夫とも地方との関わりを捉え直すプログラムに参加する中で出会いました。

—移住のきっかけ、決断の背景を教えてください
〝創造〟する暮らしへシフトしたい
知り合いから、故郷・富山でのPR・広報の仕事に誘われたのがきっかけです。
都内に住んでいた時から、自然と共にある暮らしや、故郷と繋がり続ける暮らしへの思いはずっと心の中にありましたが、当時の私の生活からすると、移住して畑を耕すライフスタイルはあまりにハードルが高いものでした。
そんな中、以前から気になっていた「パーマカルチャー」という持続可能なライフデザインの考え方を捉え直す機会がありました。それまでは、「自然豊かな場所での農的な暮らしのデザイン」としか捉えていなかったのですが、その考え方をベースにした都市での実践を提唱する方の本作りにボランティアで関わることがあり、単純に農業を持続可能な形で営む手法・考え方ではないということに気付かされたのです。つまりその本質は、「経済優先で大きなシステムに乗っかって〝消費〟する暮らし」から「自分・他者・環境(自然)との関係性を再構築し〝創造〟していく暮らし」にシフトするための考え方でした。
ちょうど、同じく地方の可能性やライフスタイルに着目していた夫と出会って意気投合したこともあり、共にこの「パーマカルチャー」を学び、暮らしを自らの手で創造していくために文化の担い手になりたい、そのためには地方での暮らしを営みたい、と思うようになりました。「一人じゃ無理でも、二人ならできるかもしれない」という思いが芽生えたことも大きかったと思います。
そんな時に富山での仕事に誘われたので、「今だ!」という気持ちになり、すぐにOKの返事をしました。
—移住まではスムーズに進みましたか?
両親や親戚、友人のアドバイスで物件を選定
実は、夫に富山の仕事を受けたと報告したのは、先方に返事をした後だったんです。
夫も地方での暮らしを実践したいという意向を持っていたので、きっと賛同してくれるだろうと思っていたのですが、最初はかなり驚いていました。「もっといろんな場所を検討してからでもよかったんじゃない?」と。その通りなのですが、生まれ育った富山だからこその利点があると思い、夫を説得しました。両親や親戚、友人知人がいるので現地の情報が多く入るし、いざという時に頼れるのは心強い。実際、最初の家探しでは両親や親戚、友人などにアドバイスをもらい、家探しを手伝ってもらいました。
私たちが目指すライフスタイルを考えると、山間のエリアが良いかと思っていましたが、「慣れるまでは市街地に近い場所(海側)が良いのでは?」とのアドバイスもあり、空家バンクの中から海側の物件を選んだんです。その後ご縁があって今住んでいる中山間地の家に越しましたが、市街地に近い場所で最初の移住ライフを過ごしたことで富山の生活に慣れ、その後の暮らしを具体的にイメージすることができてよかったと思います。
—移住して思うこと、今後の目標を教えてください
里山に人々の交流の場を
移住してからは、経験を活かしてPR・広報・コーディネートの仕事をしながら、農地をお借りして家庭菜園をしてみたり、この場所での次の展開を考えたりしてきました。その過程では、移住前と同じように働き詰めになってしまったこともあり、暮らしを見直したこともあります。現在は夫が新規就農したこともあり、自分自身は農業+パラレルワークというスタイルになっています。
自分の事業としての料理教室は、「食」を大切にしたいという思いからの表現の一つです。移住直前に、野菜や果物、ナッツなどを非加熱でいただくローフードという食事法の講師になる勉強をしていたのですが、その後富山に来て、本当に四季折々の食材が豊かなことに感激しました。そこで発酵や薬膳などについても学びを深め、2021年から料理教室も他の仕事と並行して行っています。今後は自家農園の農産物加工も兼ねて、ローフードの知識を活かしたスイーツや、自家農園の自然栽培米を活かしたスイーツの製造販売もしたいと準備中です。
実は大学卒業後、東京で働いて2年ほど経った頃から、都会からアクセスの良い自然豊かな場所で、人が集まる場所を作りたいというビジョンを持ち続けていました。昨年ようやく、近所の美しい古民家を活用させていただけるご縁に恵まれたので、近いうちに里山の暮らしや環境に配慮した農業、体に優しい食事などが体験できる施設を立ち上げ、人々の交流や癒しのための場を作りたいと考えています。
仕事を続けていると、疲れているのに気づけなかったり、思い詰めてしまうこともありますよね。そんな時に、ここで心と体を整えるお手伝いができたらと思っているんです。
「自分・他者・環境(自然)との関係性を再構築し創造していく暮らし」の楽しさを伝えていくことをライフワークにして、これからも富山の地で暮らしていきたいと思っています。

マイフィロソフィ
『誠実に行う、丁寧にする、独自性を出す』
自分がその仕事を行う社会的な意味を意識し、その時々の可能な範囲で自分なりに心を込める
1日のスケジュール
07:00
起床
身支度、朝食
07:30
リモートワーク開始
作業、会議など
12:30
昼食
14:00
車の整備会社へ
車の乗り換えの件で相談
15:00
受注したお米の配達
18:00
会食
この日は親戚と
その日の仕事や用事によって、午後にリモートワークを入れたり、終日他の仕事と入り混じって作業することもあります。