父の会社を支え、次世代へ 働く女性が輝く空間づくりをリード

目次
—出産を機にご実家の会社を継ぐ決意をされたそうです
家族の時間が増えたことで気持ちに変化
5年ほど前に、父が経営する設計事務所に入社し、現在は設計室長を務めています。それまで15年ほど大手の設計事務所に勤務し、官公庁や商業施設など大きな案件に携わってきました。会社員時代は、父の会社を継ぐという考えはまるでなく、このまま会社でキャリアを積んでいくものだと考えていたので、この展開は自分でも驚いています。
考えが変わったのは、子どもができたことが大きかったですね。出産をきっかけに実家の両親と過ごす時間が増えたことで、家業を継ぐことを考えるようになりました。
この先誰かが会社を継がなければ、いずれ会社はなくなってしまう。それを思うと、少し寂しい気持ちになりました。
同時に、今後のライフプランや仕事のあり方についても考え直しました。私自身、父の影響を受けて建築の道に進んだこともあり、同じ建築士としてあらためて父の姿を見たときに、父の会社のことも自分ごととして捉えるようになり、今後は家業を支えたいという気持ちが強くなったんです。
—家業に入って、お父様との関係性や仕事に対する考え方に変化は?
より多角的に仕事を展開
父とはそれぞれのプロジェクトを担当するスタイルで仕事をしているので、いわゆる師匠と弟子といった関係ではありませんが、建築士としての経験が豊富で、いつも明確な意志決定をする父を尊敬しています。
私が手がけている案件の話をすると、「なかなか面白いね」と聞いてくれますし、二人とも建築士として違う個性を持っているので、父にとっても私の仕事ぶりが興味深いのではないでしょうか。
仕事に対する考え方といえば、会社員時代は純粋に建築士として仕事をしていましたが、父の経営する会社では、不動産業や設計技術者の人材派遣業なども手がけています。会社の経営という視点で、より仕事の幅を広げて多角化した方がいいという方針です。私は、多方面から建築に関わることで、新たな見方や気づきが加わり、掛け算のような相乗効果も感じています。

—建築士として〝働きやすい空間づくり〟も手がけていらっしゃいます。印象的だった仕事を教えてください
ワクワク働ける空間づくりに着目
最近では、あるオフィスのリノベーションの仕事に非常にやりがいを感じました。
クライアントである経営者の考えをヒアリングしながら、企画段階から関わったのですが、経営者の理念や企業姿勢、社員に対する思いなどを直接聞けたことで、それらを設計のアイデアに生かすことができました。
この案件では、「社員に楽しく快適に働いてほしい」という女性社長の希望を受けて、〝カラフル・ヒュッゲ・パーク〟というテーマで空間づくりを進めたんです。
〝ヒュッゲ〟は、デンマーク語で居心地がよく、快適で陽気な気分を表す言葉です。デンマーク文化では特に大切にされ、心地よさや幸福感を大切にする考え方として根付いています。この考えを基に、社員が楽しく働ける空間づくりを目指しました。迷ったときはこのコンセプトに立ち返り、明るく心地よく過ごせる空間、仕事に集中できる空間、仲間と楽しく対話できる空間づくりに全力を注ぎました。

—現在、小学一年生のお子さんの子育て中でもあります
自身の経験からアイデアが
今はまだ子どもが小さいので、現場に行く必要がないときは在宅で仕事をしていますが、実際に育児をしながら自宅で仕事をしてみると、オフィス勤務とは異なる課題とメリットが見えてきます。
例えば、集中して作業を進めたいときや気持ちを切り替えたいとき、自宅だと少し難しい場合がありますよね。オフィスにいると気づけないことも、自宅で働くことで分かることがありますし、また、その逆もあります。
ちょっとした工夫が、働く環境全体に与える影響は非常に大きいと実感します。
こうした経験は、クライアントのオフィス空間づくりに役立っており、パーソナルとパブリック、双方の視点から設計を考えることで、より多様な働き方に対応できる空間が提案できると考えています。
—今後のお仕事の目標、夢を教えてください。
子育て世代の女性が輝く空間づくりを
最近では、育児休暇や時短勤務など、働くための〝制度〟が整備されてきました。一方で、〝空間づくり〟はまだ改善の余地があると感じています。
例えば、静かなオフィス空間のすぐそばにお手洗いがあると、プライバシーが気になるという声を聞きます。また、子育て中の社員が、家族や保育園と気兼ねなく連絡を取れる場所があれば良いなと考えたりします。制度はもちろん大切ですが、建築の現場に携わっていると、〝空間づくり〟もまた大切だと実感します。
外資系企業では、女性用、男性用それぞれの授乳室を設けているオフィスもあるんですよ。このように、快適に仕事ができる空間、多様な働き方に応じた空間は、社員の満足度を高め、結果として企業にとってもプラスになると考えています。
何より「素敵なオフィスで働いてますね」と言われると、皆うれしいですよね。
働く人が快適に過ごせる空間づくりは、建築士としての私の大きなテーマです。とりわけ、〝女性が働きやすい職場づくり〟に力を入れ、多様な働き方に合わせた空間づくりを進めていきたいと考えています。
マイフィロソフィ
・幸せを紡ぐ建築
・人々が自然と集い、笑顔あふれる場所づくり
1日のスケジュール
06:30
起床
朝食準備
子どもの準備を手伝う
08:00
子どもを小学校へ送る
帰宅後、家事
09:00
仕事開始
メールチェック、リモート会議
提案書作成、不動産物件管理など
17:00
夕食準備
子どもと会話、宿題確認
夕食、入浴など
21:00
家族それぞれ自分の時間
22:00
就寝
リモートワークでのある一日です。仕事内容によってスケジュールは違いますが、基本的に9時から17時までを仕事の時間としています。