転職サバイバーの経験が 自分を知るヒントに
目次
—今の仕事に就くまでに、さまざまな職業を経験されました
キャリアを積むこととは無縁
そうなんです。まず、新卒時は大手企業の事務職に就きました。当時は向き・不向きなどあまり考えておらず、皆と同じようにと流れに乗って就職したという感じです。
いざ始めてみると仕事が段々とつらくなってきまして、4年目で沖縄の高級リゾートホテルに転職。単純に、「事務がダメなら接客。海の側とかいいな」と考えたからです。
その後も、アパレルの販売、ウェディングドレスのコーディネーター、精密機械説明員など、その時々で興味を持った仕事に。キャリアを積むこととは無縁でした(笑)。
一つの仕事が長続きしないのを良しとしない風潮も確かにありますし、転職時に履歴書に書いたらマイナス印象になるのかもしれませんが、私自身は大いに楽しかった。実際にいろんな仕事を経験しながら、割と早い段階で自分の適性を知ることができたのもラッキーでした。もちろん、当時お世話になったみなさんには申し訳なく思っています。ごめんなさい(笑)。
—その後、天職ともいうべき仕事との出会いがありました
デザインを勉強したくて39歳で美術大学に
大手複合機メーカーでの取扱説明書づくりです。とても興味深く、その後長く勤めることになります。
分厚い、難しい、誰も手に取らないものを、読者に向けて作り直すのが私の任務。顧客と直に接触はしませんが、「わかりやすい」「わかりにくい」といった反応はちゃんと返ってくる。その距離感がちょうどよかった。事務とも接客とも違う、人に喜んでもらえるやりがいの形を見つけられ、実にうれしかったです。
しかし、制作を追求していったある日、デザインの壁にぶち当たります。
「デザインって何だ?」と、もっと知りたい、この仕事をさらに追求したいという気持ちがむくむくと湧き上がり、39歳の時に多摩美術大学を受験。入学後は仕事を続けながら通いました。
この話をすると、「パワフルですね!」「すごいですね!」とよく言われるのですが、そんなことはまったくなく、むしろ、自分に余裕がないからこその選択だったんです。
私が苦手なことの一つに、「後悔すること」があるのですが、何も生まない、クヨクヨと暗黒の中に落ち込むだけのイヤなイヤなその「後悔」を、ひたすら避けたいがための選択でもありました。

—長く勤めた会社から独立し、現在はフリーでお仕事をされています
培ったノウハウを世間のために
51歳のとき、それまで25年間勤めてきた会社を退職しました。
長く勤めていたので、言いたいこともある程度言える年次にはなっていましたが、大きな組織の中で仕事をするのが次第に息苦しくなり、仕事にも行き詰まりを感じていました。
年齢的なことを考えると、普通はもう少し我慢するものなのかもしれません。しかし、楽しさの貯金が底をついたらアウトと決めていたので、躊躇なく退職する道を選びました。
デザイン職に未練はなく、事務を辞めたときと同じようにフルリセットもいいなと考えていました。フリーランスも頭になかった。ところが、区の就労支援セミナーで知り合った方々と話をするうち、「あれ? もしかして私、フリーでやっていけるのかも…」と気づいたのです。
考えてみれば、デザイナーはパソコン1台あればできるし、何よりこれまでに培ってきたマニュアル作りや、デザインのノウハウを持っています。「そうだ、これを世間に伝えなきゃ!」と、まずはブログを開設することに。これまで、たくさんの方から仕事を教わり、デザインを学んできたので、それを世間のために役立てなければ皆に申し訳ないという思いもありました。

—「情報デザイナー」として、これからの目標は?
人に喜んでいただける仕事を
フリーになってからは、企業に加え、個人商店などのお手伝いもするようになりました。独立して、そろそろ10年。ありがたいことに、ブログを見てお仕事の依頼をたくさんいただき、デザイン本を出版する機会もできました。
さらに、ここ最近は、「音声ガイドディスクライバー」を始めました。目が不自由な方に向け、映像を言葉で伝える仕事です。わかりやすさを極めるという点ではこれまでの経験が活かせるのですが、まだまだ駆け出し。毎日、試行錯誤を繰り返しています。
今の目標は、映画に音声ガイドをつけること。もともと映画は大好きですし、また、デザイナーを続けてきたことで、作り手の意図が理解できる部分もあります。
見えなくても映画を楽しんでほしい。音声を通して、目の前に映像が広がるようサポートしたい。
仕事を通じて人に喜んでいただけることが、私にとっては楽しく、何よりの生きがいです。

—自分に合う仕事がわからないという方にアドバイスを
自分が大事にしていることは何か
アドバイスなどおこがましいのですが、お伝えできるとすれば、人生で一番大事なものを知っていると強いと思います。
家族との時間、お金、人からの評価など、大事なことは人それぞれ。それらを増やしたり叶えたりする手段も、たくさんあるはずです。私の場合は、「楽しむこと」であり「ものづくり」であり、そこからデザイナーやディスクライバーにたどり着きました。
つまらない、つらいと思いながら仕事を続けていたときは、職場はもとより、友人や家族にまで迷惑をかけっぱなし。そして、未来の自分にも。
迷ったときは、職種や業種といった視点から離れて、「好きすぎて時間を忘れてしまうものは?」「今日イチ笑ったことは?」など、まずはご自分と向き合ってみることから始めてみてはいかがでしょう。

マイフィロソフィ
・何事も「楽しい」と思えないものは手放す。
1日のスケジュール
07:30
起床
夫にお弁当を作る(自分が会社勤めのときはその余裕がなかったので)
08:30
出社する夫を見送る
日によって、仕事をする一日もあれば趣味に費やす一日も
夕方~夜
夫を出迎える
夫の見送りと出迎え以外、決まったスケジュールは特になし。平日・休日、盆や正月の感覚もあまりなく、一日の過ごし方も違います。会社員時代とは大きく変化した生活スタイルですが、この自由な過ごし方が私には合っています。



























































