出会いとチャレンジの中でひらめいた〝水引〟アートの可能性
目次
—以前は会社員としてIT関連のお仕事をされていました。転勤も経験されたんですね?
転勤先で「いろんなことにチャレンジしよう!」と
はい、最初は東京で勤務していましたが、念願だったウェブデザインの部署に配属されてしばらく経った頃に東日本大震災が起こりまして、それをきっかけに会社が福岡に拠点を移すことになったんです。転勤の話が出たときは、東京を離れたことがなかったので不安がありましたが、ウェブデザイナーとしてのキャリアを中断したくないと考え、思い切って福岡に行くことにしました。
福岡では、知り合いがいない中での初めての一人暮らし。もともと、内向的で人見知りなのですが、「せっかくここに来たからには、いろんなことにチャレンジして楽しもう!」と決意し、退社後や休日にデザインの講座に通ったり、美術館でボランティアスタッフとして活動したり。昔から興味があったデザインやアート関連を中心に行動の幅を広げました。
そんな中で、現地で活動するフリーランスデザイナーやカメラマンの方々との出会いがあり、いきいきと仕事をする彼らの姿にとても刺激を受けて、私もいつか自分らしく社会と関わる仕事がしたいと思うようになりました。
—〝水引デザイン〟を仕事にしようと思ったきっかけは?
イメージのギャップに可能性を感じて
福岡で3年ほど勤務した後に東京に戻ったのですが、こちらでもデザイン関連のプログラムに参加したりと、好きなアート関連の学びを続けていました。
ある時、休日にインターンとして勤務していたペーパープロダクトのお店で、1日だけのイベントに参加することになったんです。自分で作った紙製品を販売するというものでした。美大生などレベルの高いものづくりができる出品者が多い中、私は作品作りについては全くの素人。さて、どうしよう?と考えたとき、ふと、小学生のときに興味を持って自由研究にした、生まれ故郷・長野県飯田市の伝統工芸〝水引〟を思い出しました。
水引は、ご祝儀袋や贈答品などに添えられる紙縒(こより)で作った飾り紐のことです。多くの方にとっては、冠婚葬祭の場で目にするものというイメージですよね。でも、小学生の頃に私が見た水引の中には、数メートルもあるような大きな作品があったりと、デザインも多様でオブジェとして鑑賞しても楽しいものでした。
お店に併設された事務所のデザイナーに試作品を見せると、「これは面白いものを見つけましたね!」と言っていただけて、そこで初めて、自分で水引細工のアクセサリー作りにチャレンジしたんです。
水引に対する世間一般のイメージと、私が持つイメージにギャップがあったことも大きな気づきの一つでした。水引工芸がもつ技術力と、プロダクトとしての可能性、自分らしい視点で故郷の伝統産業を応援していきたいという思いが重なり、それ以来、独学で作り方を研究したり、デザインを考えたりするようになりました。同時に、どうしたらビジネスに繋げることができるかということも考えました。
—どのような活動から始められたのですか?
会社勤めのかたわら副業としてスタート
最初は、会社に許可をもらい、副業としてSNS等で作品を紹介するところから始めました。古くから伝わる水引の伝統結びと、独自に考案した創作結びを織り交ぜた作品です。退社後や休みの日を利用し、オリジナル作品を作っては撮影するという活動を続けていたところ、次第にショップや企業から注文が入るようになっていきました。
ある時、飯田市から声をかけていただき、新しい水引素材の開発プロジェクトチームに入れていただくことになったんです。会社の仕事を当時はまだ珍しかったリモートワーク中心に切り替えて、東京と長野を往復する二拠点生活を3ヶ月ほど続けました。地元メディアからの取材で、初めて〝水引デザイナー〟という肩書きを名乗ったのもこの頃です。飯田市のプロジェクトに参加できたことはとてもうれしく、大きな自信につながりました。
その後、出社勤務に戻りましたが、水引の問い合わせをいただくことが増えてきて、打ち合わせや作業時間の確保が難しいことから、業務の区切りがついたタイミングで退社し、水引の仕事に専念することにしました。収入の目処がある程度立っていたことが安心材料でもありました。
—現在はどのような活動をされていますか?
水引の新たな可能性を求めてオリジナルデザインを提案
ECサイト等で販売を続けながら、OEM製造を請け負ったり、ワークショップ講師を務めたり、展示会に出品したりと、水引をより多くの方に知っていただくための活動を続けています。前職で身につけたウェブの知識や仕事の進め方が、いろんな場面で役に立っています。
一方で、コロナ禍で冠婚葬祭用品や観光地のお土産品の需要、対面イベントの収入が大きく落ち込んでしまい、ウェブ関連の仕事を業務委託や派遣社員として担っていた時期もありました。今は、また次のイベント準備や新商品の開発等、目の前の水引の仕事にひたすら取り組んでいますが、今後も社会状況や自身のライフステージ、価値観の変化に応じて、希望する働き方を選べる柔軟性を持ち合わせていたいと思っています。
—〝好き〟を仕事にしたいと考えている方にアドバイスを
自分が好きなことが、誰かの役に立つかを考える
私がこの仕事を始めるときに意識したのは、〝好きなことだからこそ、独りよがりになっていないか〟ということです。誰かの役に立ったり、誰かを幸せにしたりすることで、仕事として価値が生まれ、それがやりがいにつながると思うからです。
自分の計画をまわりの人に話して、客観的な意見を聞いてみるのもいいですね。身近な人に応援してもらえると、一歩踏み出す勇気が湧いてくることもあります。
また、仕事を続けていると、思いがけない出会いに恵まれることがあります。人との出会いから新たな発想を得たり、チャレンジする機会をいただいたり。憧れの企業やブランドとお仕事ができることもあります。何もしなければ得られなかった経験ですから、これは大きな幸せです。一期一会を大切に、これからも誠実に取り組みたいと思っています。
マイフィロソフィ
・好奇心のアンテナを立てる
1日のスケジュール
08:00
起床
朝ドラを観る
朝食
10:00
仕事開始
メールチェック
注文品の出荷準備など
12:00
昼食
13:00
企画書作成
SNS用の写真撮影など
15:00
作品製作
19:00
夕食
夜は再び作品製作
今は特に作品製作が楽しくて、趣味の時間もすべて作品作りに注ぎ込むように。熱中して、夜寝るのが遅くなってしまうこともあります。