家族の反対を押し切り曽祖父の代から続く銭湯を継業

目次
—現在、四代目としてご実家の銭湯「幸福湯」を経営されています。もともと継ごうと考えていたのですか?
大好きな場所を、このまま閉じるのは寂しいと…
もともと、継ぐことはまったく考えていませんでした。私は四代目ですが、三代目にあたる私の父は違う仕事に就いていたため、母が二代目である祖父を手伝う形で経営していました。子どもの頃から仕事の大変さを見て育ちましたし、「こんなに大変なんだから、時期が来たら閉めればいいじゃない」と、軽く考えている程度でした。
ところが、設備の老朽化等で、実際に閉業を検討する段階になったとき、まわりの方から「寂しい」「何とか続けてほしい」と声をかけられることが重なって。ちょうど、私自身が仕事で迷っていた時期でもあり、いろいろと考え始めました。
社会人になり、いくつかの仕事を経験して分かったことは、私はお金をたくさん稼ぐよりも、人に喜んでいただくことにやりがいを感じるということ。考えてみたら、銭湯はまさに、そんな私にぴったりの仕事でした。それに、幸福湯は子どもの頃からの思い出がたくさん詰まった大切な場所。大好きな場所がなくなることに、自分自身が寂しさと危機感を抱いたことも大きかったですね。
—ご家族の反応はどうでしたか?
体力もいる大変な仕事。最初は反対されました
継ぐ決意を告げたとき、家族からは反対されました。とくに母は、仕事の大変さを身をもって知っていたからか反対でしたね。体力的なことや、将来結婚するときのことも心配だったようです。でも、決意は固まっていました。それまでも仕事は手伝っていたのですが、継ぐと決めてからは、一つひとつの作業が、なぜか楽しくて楽しくて! 不思議ですよね(笑)。
熱心に仕事をする様子を見て、反対だった家族も最終的には継ぐことに同意してくれました。
—銭湯を継いで、独自に工夫されたことは何ですか?
周知のためにSNSを開始。グッズ販売も
それまでは、来てくださるのは主に常連さんで、お客さんの数自体は以前に比べて減っている状況だったんです。設備が古くなっていたこともあり、まずは浴室を改装するところから始め、ホームページを作って、SNSも始めました。幸福湯は少し奥まった場所にあるので、知らない方にとっては見つけにくいのですが、SNSを始めたことで、うれしいことに新規の方にもたくさん来ていただけるようになりました。
また、新しく始めたことといえば、ロゴを考案し、Tシャツなどのオリジナルグッズの販売を開始しました。銭湯のロゴ入りが珍しいのか、けっこう人気なんですよ。

—お仕事にやりがいを感じるのはどんな時ですか?
お客さんに喜んでいただいたとき
やはり、「気持ちよかった」と喜んでいただいたときはとてもうれしいですね。特に、衛生面には気を使っているので、「お風呂がいつもきれい!」という言葉をいただいたときはホッとしますし、頑張ってよかった! と心から思います。
接客の面では、それぞれのお客さんに合わせた臨機応変な対応ができることにもやりがいを感じます。例えば、年配の常連さんがしばらく来ない場合に電話などで安否確認をしたり、また、体調面が少し気になるお客さんに声かけをしに行ったり。当たり前のように思われるかもしれませんが、会社員時代は、対応が不公平にならないようマニュアルから外れたことができず、困っている人の役に立てなかったこともあったんです。
また、銭湯って、地域のコミュニケーションの場でもあると思うんです。旅で立ち寄った若い方と、地元のおじいちゃんがおしゃべりを楽しんでいる姿を見ると微笑ましいですし、私もうれしくなります。

—これからの夢・目標を教えてください
「幸福湯」がお客さんの日常であり続けること
銭湯を継いだばかりの頃は、館内でイベントを企画したり、活気が出るような新しいことを考えなきゃと思っていました。しかし最近、日々の仕事から感じるのは〝いつも同じように迎えること〟の大切さです。
他の銭湯で新しいアイデアを取り入れている話を聞くと、正直、焦りを感じることもあります。でも、継いで5年目となった今は、幸福湯の一番の役割は〝お客さんの日常であり続けること〟だと思うようになりました。いつ来ても、いつもと同じでホッとする…そんな立ち位置で、地域で愛される銭湯を長く続けることが私の夢です。

マイフィロソフィ
・主役は常にお客さんだということを忘れない。
1日のスケジュール
09:00
起床
身支度、朝食をとる
10:00
お風呂の準備
11:00
店を開ける
店番をする
14:00
店番交代
昼食、事務作業、休憩など
19:00
店に戻る
22:00
夕食
23:30
店を閉める
掃除、翌日の準備、自身の入浴など
04:00
就寝
祖父の頃は定休日がほとんどなかったのですが、私の代になってからは、年に2回の長期休暇を設けています。長く続けるためにはしっかり休み、無理をしないことも大切だと考えています。