偶然目にした財布の柄に惹かれて 伝統工芸の世界へ

—前職では商業施設に長く勤務されていました
身につけた多彩な顧客対応
大学卒業後、新卒で入った商業施設でインフォメーションセンターに勤めていました。店舗の案内から電話対応、館内放送など業務内容は多岐に渡り、覚えることもたくさんです。お客様から見たらインフォメーションスタッフは施設の顔ですので、電話に出る際の言葉遣いや接客マナー、施設内のすべての店舗の場所やそれぞれの営業時間まで、徹底的に頭に入れました。
館内放送では、話す際のスピードや抑揚はもちろん、言葉の〝間〟にも決まりがあるんですよ。すべての方に聞き取りやすくという配慮によるものだと思います。このようにマニュアルはありましたが、案内業務は奥が深いものでした。
「プレゼントを買いに来たけど、どのお店で買ったらいいか分からない」という相談を受けることもあり、そんな時はお話を聞いた上で用途に合うお店を案内します。後で「買ったよー!」と包みを掲げながら笑顔でカウンターの前を通って帰られた方がいらして、とてもうれしかったことを憶えています。状況に応じてフレキシブルな対応が求められる分、やりがいのある仕事でした。
—転職を考えるようになったきっかけは?
美しい財布の柄が気になって
前職在職中はコロナ禍もあり、目まぐるしく変わる状況に必死でついていくうちに、あっという間に月日が経っていたという感じです。
20代後半になり、同級生の間で、結婚した、家を買った、昇進したという話が聞こえ始めたとき、「私はこのままでいいのだろうか」と考えるようになりました。
仕事は楽しいけれど、5年後、10年後の自分がイメージできないまま、目の前の仕事にただ取り組む日々です。
そんな時、インフォメーションカウンターで、お客様が財布から駐車券を取り出す際、その財布の柄にふと目が留まりました。白い革に鮮やかな色で一面に小花が描かれていて、それがとても可愛らしく、今までに見たことのない雰囲気で印象的でした。 その後、同じお客様のその財布を目にする機会が重なり、どうにも気になってインターネットで検索しました。〝お財布 白い革 花柄〟といった、思いつく限りのワードで検索した結果、「文庫屋 大関」に辿り着いたんです。

—印象に残るデザインだったんですね
社長の言葉で入社を決意
もともと、切子ガラスや寄木細工、ペルシャ絨毯など、手仕事で作られる緻密で美しいものが大好きだったんです。大関のホームページを見て、繊細で鮮やかなデザインの数々に惹かれ、さらにそれが東京で製作されている伝統工芸品であることを知りうれしくなりました。
ちょうど〝彩色職人〟の求人が出ていて興味を持ち、メールで問い合わせをしました。
仕事内容について教えていただいたりと何度かやりとりをしたのですが、職場で欠員が出て慌ただしくなり、その時は転職を一旦諦めることにしたんです。
しかし、その後も文庫革のことが忘れられず、しばらく後にインフォメーションセンターを退職し、あらためて求人に応募し直しました。
絵画や絵付の経験はありませんでしたが、自分であの美しい柄を描きたいという気持ちが強く、最初は職人希望でした。しかし、一次面接、二次面接と進むうちに、職人ではなく販売職はどうかと社長に提案されたんです。
後から知ることですが、文庫革の作業は力仕事も多く、技術はもちろん体力も必要です。社長は私の経歴や適性を見て、技術職よりも販売の方が向いていると判断したのでしょう。
一方、私が持つ販売職のイメージは、積極的にお客様に声をかけて商品を売る仕事。もしかしたらノルマがあるかもしれない。私自身、買い物中に店員さんに声をかけられるのが少し苦手だったこともあり、自分がやりたい仕事ではないと考えていました。
そのような不安を口にしたところ、「うちでは、店頭でお客様に文庫革の歴史や商品の魅力を伝えることがまず一番。ノルマもないので安心して大丈夫」と言われ、それならできるかもしれない、やってみようと入社を決意しました。
正社員として迎えていただけることと、スタッフの多くが女性ということもあり、今後、結婚や出産などで生活に変化があっても相談しながら長く働けるという点も安心でした。
—販売の仕事に就いてみていかがですか?
商品の魅力をどう伝えるか
店舗では前職の経験も役立っていますが、そこにプラスして〝商品の魅力をどう伝えるか〟を、いつも考えています。長い伝統や作業の工程も紹介したいし、作品を生み出す職人の苦労も知っていますので、その思いも背負っているつもりで。
私だったらどんな声かけがうれしいだろう? それとも、今は静かに商品を見ていたいかな? と、お客様の様子を見て考えます。
ある時、デザインで迷われているお客様に、それぞれの柄に込められた意味やデザインに関するエピソードをお話ししたことがあります。すると、話を聞いたお客様の顔がパッと輝いて、「じゃあ、こちらにします」と、決められました。
私の説明が購入につながったのはもちろんうれしいことですが、商品の背景まで含めて気に入っていただけたことがとてもうれしかったですね。お客様と感動を共有できるのはこの仕事の醍醐味だと思います。

—–表参道店の店長になって約半年です。これからの目標は?
お客様と工房の橋渡し役に
表参道店はオープンしてまだ間もないのですが、場所柄若い方が多く、海外からのお客様もディスプレイを見て「何のお店だろう?」と、ふらりと入って来られます。大学では外国語を専攻していたので、接客や商品説明に必要な英語をあらためて確認し、海外の方にも説明できるようにがんばっています。
また、実店舗は商品開発のためのリサーチの場でもあると教わりました。
お客様とのお話の中から需要を拾い、「こんな商品があったらいい」「こんな柄はどうだろう?」といった、アイテムや柄の提案もできるようになりたいですね。
私が一目で惹かれたように、大関の商品には見た人を惹きつける魅力があると思っています。お店を訪れた方に、その魅力が最大限伝わるようさまざまな工夫をして、お客様と工房の橋渡し役になれればと考えています。

マイフィロソフィ
・お客様の気持ちに寄り添う
1日のスケジュール
07:10
起床
身支度、お弁当作り
07:50
自宅を出発
電車内で調べ物など
09:20
店舗に到着
10:00
仕事開始
清掃、事務作業、
商品のディスプレイチェックなど
11:00
店舗オープン
13:00
昼食
19:00
店舗クローズ
20:15
帰宅
夕食作り、家事など
23:30
就寝
手芸など細かい作業が好きなので、帰宅後や休日には趣味のペーパークラフトを楽しむこともあります。