見習い期間中に妊娠・出産 社内第一号のママ職人に
目次
—左官職人を志したきっかけは?
手に職をつけたくて建築の世界へ
もともと手に職をつけたいという思いがあり、専門の技術を身につけられる仕事を探していました。最近では建築現場に女性の姿もありますが、約20年前の当時は、技術職といえば男性ばかり。男性社会の中で、はたして長く働けるだろうかという心配もありました。そこで、すでに女性の職人が在籍している会社を探し、たどり着いたのが「原田左官工業所」でした。
左官の仕事は、建築現場で壁の下地を作ったり、壁や床などに仕上げの塗りを施すのですが、当時はまだ19歳で、実を言うと左官という言葉も初めて聞くほど何も知らない状態。未知の世界ではありましたが、未経験でも見習いから始められること、そして女性が活躍しているという実績が大きな安心材料になりました。
—会社で最初に産休を取得されたとか
見習い期間中に妊娠・出産
入社して2年目に妊娠が分かりまして。まだ見習い期間中でもありましたし、その時は仕事を続けられるのかとても不安だったのを憶えています。
当時はまだ、今ほど産休や育休といった制度が一般的ではなく、会社でも前例はなし。しかし、私の中では仕事を辞めるという選択肢はありませんでした。
不安に思いながらも先代の社長に相談すると、「続けたら?」と言ってもらえたので、会社と相談して国の産休制度を調べてもらい、3ヶ月の休みを取りました。
仕事に復帰してからは、出勤日数を減らして勤務を続けました。
一般的には〝時短勤務〟をすることが多いと聞きますが、左官という仕事の性質上、一度現場で仕事を始めたら〝時短〟はなかなか難しいんです。
職人の妊娠・出産は社内で初めてのことでしたし、働き方のシステムを新しく作るのは大変だったと思うのですが、柔軟に対応していただいたおかげで、今も仕事を続けることができています。
—育児と仕事の両立で大変だったことは?
夫とうまく連携して育児
朝は家を出るのが早いため、子どもの保育園への送迎は夫が担当してくれました。この体制が取れたからこそ、育児と仕事を両立することができたのだと思います。
第一子を出産して2年後には第二子が生まれ、夫婦で連携して大変な時期をなんとか乗り切りました。子どもが18歳と16歳になった今、小さい頃に比べたら手がかからなくはなりましたが、家事と仕事の両立はやはり大変ですよね。
数年前に「一級左官技能士」の資格を取得したのですが、その時は勉強時間を確保するのに苦労しました。学科の勉強はどこでもできますが、実技は家ではできないので、日曜日に会社に出て練習を重ねました。技術は実際に体を動かして覚えるしかないんです。
大変でしたが、家族の応援と会社の先輩方のサポートのおかげで、無事に合格することができました。
—左官の仕事の面白さ、醍醐味とは?
同じものは二つとない職人の手作業
左官の仕事は主にコテを使い、職人の手で行います。建築物の中でもチャームポイントとなるような、人の目につく場所に施すことが多く、それも基本的に一発勝負の作業なので毎回緊張感があります。しかしその分、無事にやり終えたら達成感がありますね。
うちの会社では、主に店舗や住宅、商業施設の仕事を請け負っています。自分が手がけたお店がオープンする時はうれしいですし、誰もが知っている大きな商業施設など、ランドマーク的な建物の仕事にも大きなやりがいを感じます。
休みの日に街を歩いたり、お店に入ったりすると、つい壁や床に目が行き、「これは難しかっただろうな」「なるほど、こうなっているのか」などと、じっくり見てしまうことがあります。それぞれ職人の手による作業なので同じものは二つとありません。そう思うとつい見てしまうんですよね。そこが左官の面白いところなんです。
—仕事を続けてきて思うことは?
〝案ずるより産むが易し〟で、何にでもチャレンジ
現在、会社には40名以上の左官職人が在籍していて、そのうち15名が女性です。以前はなかったことですが、今では現場に女性専用のトイレや休憩室が設置されることもあり、そういったところにも時代の変化を感じます。
うちの会社では、定年は今70歳です。先輩方を見ていると、元気に仕事をしている方がたくさんいらっしゃいます。自分が70歳になったとき、彼らのようにバリバリに仕事ができるだろうかと思うと、今はあまり想像ができません。それでも、せめて60歳までは続けたいかな? そう思って、たまにスクワットなどしています(笑)。足腰が大切ですからね。
今、職人としては中堅だと思うのですが、最近は気持ちの面でも変化してきました。
実は、私はもともと心配性で、初めてのことや難しいことをする時は、「失敗したらどうしよう…」と尻込みしてしまうところがあったんです。でも最近は、実際に手を動かしてやってみれば案外うまくいくものだと分かってきました。経験を重ねてきて、気持ちも鍛えられたのかもしれません。これからも〝案ずるより産むが易し〟の精神で、とりあえず何にでもチャレンジしていこうと思っています。
マイフィロソフィ
・案ずるより産むが易し
1日のスケジュール
04:00
起床
身支度、朝食作り
05:00
自宅を出発
06:30
会社に集合
準備をして車で現場に出発
08:00
現場に到着/仕事開始
途中、休憩時間や昼食をはさみながら作業
16:00
作業終了/会社へ戻る
片付けをして仕事終了
18:30
帰宅
植物の世話
夕食作りなど家事
19:30
家族で夕食
掃除、洗濯など
23:00
就寝
家では植物を育てるのが好きで、今は朝顔やオリーブの木を育てています。うちの花壇を楽しみに見てくださっている近所の方に声をかけていただくことも。そんなときはうれしいですね。